下総の国葛餝郡真間の郷に、勝四郎といふ男ありけり。祖父より 旧しくここに住み、田畠あまた主づきて家豊に暮しけるけが、生 長りて物にかかはらぬ性より、農作をうたてき物に厭ひけるまま に、はた家貧しくなりにけり。 さるほどに親族おほくにも疎んじられけるを、朽をしきことに思 ひしみて、いかにもして家を興しなんものをと左右にはかりける。 足利染の絹を交易するために、年々京よりくだりけるけが、此の 郷に氏族のありけるを屡来訪ひしかば、かねてより親しかりける ままに、商人となりて京にまうのぼらんことを頼みしに、雀部い とやすく肯ひて、「いつの此はまかるべし」と聞えける。他がた のもしきをよろこびて、残る田をも販りつくして金に代へ、絹素 あまた買積みて、京にゆく日をもよほしける。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー この「浅茅が宿」は「愛卿伝」を基にして、夫婦の別れや妻の自 殺などの筋を借りて「今昔物語(巻第二十七)」が参照され、さら に題名その他に「源氏物語」の影響を受けているのだという。 「浅茅が宿」という語は「徒然草」の百三十七段に「長き夜をひ とり明かし、遠き雲井を思ひやり、浅茅が宿に昔を偲ぶ…。」と あるのが最初のようだ。 写真はイメージで、遠野の茅葺屋根の廃屋
by stavgozint
| 2009-01-03 17:58
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