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「蛇性の淫」決、其の五

豊雄を退けて、かの袈裟とりて見給へば、富子は現なく伏し
たる上に、白き虵の三尺あまりなる、蟠りて動だもせずてぞ
ある。老和尚これを捉へて、徒弟が捧げたる鉄鉢に納れ給ふ。

猶、念じ給へば、屏風の背より、尺ばかりの小蛇はひ出るを、
是をも捉りて鉢に納れ給ひ、かの袈裟をもてよく封じ給ひ、
そがままに輿に乗せ給へば、人々掌をあはせ、涙を流して敬
まひ奉る。



真女児の退治の描写であるけど、法師を殺した時は三尺の口
だったが、ここで芥子の香が染みこんだ袈裟を被せた後に、
その袈裟を取って見ると三尺の白蛇がとぐろを巻いていた。

原話となったらしい「白娘子」では「原型ニ複了シテ、三尺
ノ長キ一条ノ白蛇ニ変了ス。」
とあるようだ。つまりこれが
元々の真女児の正体であるのがわかる。

その真女児である白蛇を、法海和尚は鉄鉢に入れるのだが、
鉢で思い出すのは「御伽草子」の「鉢かづき姫」の話だ。
鉢かづき姫の母は、姫を時が至るまで穢れから守り、清浄さ
を保つ意味と同時に、観音の功徳によって身の安全を守ると
いう意味合いを込めて被せた鉢は呪術の証だ。語源は、サン
スクリット語のパートラから来ているらしく、その漢字訳の
原型は「鉢多羅」らしい。

元々鉢は、神霊を宿す呪物であり、その霊力によって魔を除
けたり、強靭な生命力を与える役割をする道具である。昔話
では、割れた鉢から金銀財宝や婚礼衣装が出てくる話もある
ので、異界とも繋がっていると思われたふしもある。

こういう意味があるからこそ、真女児の体を鉄鉢に納めたの
だろう。
by stavgozint | 2007-05-31 18:10 | 「蛇性の淫」
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