とにかく「吉備津の釜」は、怪談話の定番のような設定だ。その
恨みを凝縮させた形が、最後のライトなのだろう。ラストシーン のおぞましさで、どれだけ怖い話か伝わるのだろう。 この「吉備津の釜」でのラストは正太郎が髪の毛だけになってしまう…。 明けたる戸腋の壁に生々しさき血灌ぎ流れて地につたふ。されど 屍も骨も見えず。月明かりに見れば軒の端にものあり。ともし火を 捧げて照らし見るに、男の髪の毛のもとどりばかりかかりて、外に は露ばかりのものもなし。浅ましくも恐ろしさは筆につくすべうもあ らずなん。 古来中国では、髪は魂の抜け出る場所と思われていた。なので、 魂が抜け出ないように、髪を束ねて、それを防いでいたようだ。それ は日本にも伝わりやはり、髪を束ねている文化もあった。 ところがザンバラ髪は、いつ魂が抜け出てもおかしくない状態。もしく は、幽鬼の類は、魂をほとばしらせて悪行を重ねるので、ザンバラの 頭の人間もまた妖怪視されたようだ。 髪の毛はとにかく、魂の出入り口なのだが、その髪の毛だけになった 正太郎というのは、とにかく魂を含め全ての物を、磯良に奪われてしま ったものとして、衝撃的な結末なのだと思う。 それとその前に…陰陽師は筆をとり、正太郎の背より手足に及ぶまで、 文字を書き記したが…ここで思い出すのは「耳無し芳一」の話だ。耳に だけお経を書いてもらわない為に、亡者に耳を持って行かれた芳一と、 正太郎の酷似は多分、後に小泉八雲がこの「吉備津の釜」を読んで取り 入れたのでは無いだろうか?
by stavgozint
| 2008-01-26 17:50
| 「吉備津の釜」
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