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「蛇性の淫」決、其の八

蘭若に帰り給ひて、堂の前を深く堀せて、鉢のままに埋めさ
せ、永劫があひだ世に出づることを戒しめ給ふ。今猶、蛇が
塚ありとかや。庄司が女子はつひに病にそみてむなしくなり
ぬ。豊雄は命恙なしとなんかたりつたへける。




道成寺へは、まだ一度も行った事が無いのだけど、道成寺境内
の本堂前に金巻のあとの「蛇室」の石碑があり、清姫の蛇塚
は、境外の田の中にあるというが、この「蛇性の淫」のエピ
ローグの記述は、まさに「安珍・清姫伝説」に帰結させるも
のなのか?

ところで真女児に取り憑かれた富子は結局、病気になり死ん
でしまうが、豊雄は命に別状は無かったと伝えられたと結ん
でいる…。

もしも、豊雄に少しでも真女児と、犠牲になった富子に対す
る想いがあったのなら、その後に出家したとなるのだろうが、
ここでの豊雄は、単なる被害者の男であっただけ。しかし安
珍は因果応報、清姫に鐘の中で焼き殺されてしのうのだが、
豊雄は一般的な怪談映画の主人公よろしく、無事に生き延び
ている。これを、どう捉えるか?

ここまで読んできて、上田秋成はストーリーの中にいいろな
プロットを散りばめて、皮肉交じりでストーリーを展開して
きたようだが、エンディングに関しては何故か釈然としない。

ただ逆に言えば、単なる怖い話として一般に知らしめた「蛇
性の淫」を、その当時の人々がどこまでその奥を知り得たの
か?という事なのかもしれない。この結末を記した秋成の心
情に関しては、もう少し考えてみたい…。
by stavgozint | 2007-06-01 22:25 | 「蛇性の淫」
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