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「青頭巾」序章8

ところで聖人であった阿闍梨が鬼となったのは、色欲とは書いたが、
元々は越の国から連れて来た十二三歳の容の秀麗な童児に魅せ
られたからである。

越の国で有名な”鬼”の代表は、弥彦山の「ヤサブロウバサ」だ。
ヤサブロウバサとは弥三郎の婆の意味であり、弥三郎とは元々近江
の国の伊吹山に住むもので、その子供は伊吹童子。実は、大江山の
酒呑童子は、伊吹童子が伊吹山から大江山へ移り住んだものとされ
る。

江戸時代に大風が吹く事を「弥三郎風」が吹いたとされるのは、風
は古来からヤマセなど、作物を枯らす冷害などの悪を運ぶもので
あり、九州から北陸にかけては、風とは妖怪(鬼)そのものであると
思われていたようだ。

ところで越の国とは、北陸だけでなく、現在の山形は羽黒へも広が
る地域として知られている。古代の朝廷にとって、東北は鬼門とさ
れた。ただし鬼門には、表と裏があり、同じ東北でも青森・岩手は
表鬼門とされ、裏鬼門は羽黒のある現在の山形を含む越の国で
あった。

その為なのか、江戸時代に入っても陰陽道に長けていた天海は、
江戸を呪術的支配とするよう、羽黒や湯殿山のある出羽の国へ手
を施した形跡がある。

弥三郎のいた伊吹山は、ヤマトタケルの死んだ魔の地でもあり、そ
の伊吹山の弥三郎という存在がいつしか越の国へと伝えられ定着し、
弥三郎よりも更に恐ろしい弥三郎の婆「ヤサブロウバサ」誕生であ
る。江戸時代には、鬼の総本山として越の国が存在した。

越後の弥彦神社に祀られている「ヤサブロウバサ」でもある「妙多
羅天女像」は、まさしく鬼婆の様相をしている。妙多羅の多羅は
「多々羅」に通じ、やはり近江の国の弥彦山にも「多々羅」が存在
し、その繋がりが際立つ。そして鉄と鬼の関係よろしく、まさしく
越の国の「ヤサブロウバサ」は、江戸当時の鬼の代表格となってい
る。

その越の国から連れて来た童児に心を奪われ、その死肉を食らっ
て鬼となった阿闍梨は、まさに越の国の「ヤサブロウバサ」が葬儀
の参列を襲い、死体を奪って食らう鬼という存在と同じだ。

もしかして越の国から来た童児そのものが、実は人の心をたぶらか
す鬼であり、その自らの死肉を食らわし、阿闍梨を鬼としてしまった
のは、快庵禅師が阿闍梨に対し青頭巾を被せ衣鉢を継がせたのと
同じようにまた、死肉を食らわせるよう仕向けたのは、鬼の”衣鉢を
継ぐ”という行為ではなかったのだろうか?

蛇足ではあるが、近江の国から越の国へ行き、中央に赴いたという
人物は、歴史上の中では未だ謎の人物とされる継体天皇である。

もしかして、鬼の伝説と何か関連があるのだろうか?
by stavgozint | 2008-05-10 21:11 | 「青頭巾」
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