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「青頭巾」序章12

>されどこれらは皆女子にて、男たるもののかかるためしを聞かず。
>凡そ女の性の慳しきには、さる淺ましき鬼にも化するなり。



こういう話の殆どは女であって、男のこのような話を聞いた事が無い。
女の性格の貪欲さは、浅ましい物の怪によく化けるものである…みた
いな訳になるのかもしれない。

ところで「吉備津の釜」の初めにも「女の慳しき性を募らしめて…。」
とあり、秋成は女の慳しさを書き記している。女性とは卑しいものだ?
という観念は、秋成だけでなく、時代の観念として根付いていたのか
もしれない。

実は平安時代の「徒然草」107段でも吉田兼好は、痛烈な女性批判
を書き記している。

「女の性は皆ひがめり。人我の相深く、貪欲甚だしく、物の理を知ら
 ず、ただ迷ひの方に心もはやく移り、詞も巧みに、苦しからぬ事を
 も問ふ時は言わず…。」


しかし平安時代である「徒然草」から、江戸時代の「雨月物語」の間、
女性蔑視の観念は続いていたのだろう。これは一部の例ではあるけれ
ど、文章の中で言い切ってしまうというのは、時代は変れど女性に対
する意識は変らないままだったのだろう。

江戸時代には「怪談」も盛んになり「四谷怪談」やら「累が淵」
ど男に裏切られ、幽霊となって復讐する話が全盛となる。これの元と
なるのは、昔から伝わる女性に対する意識だ。

例えば「夕鶴」で女が「決して機を織っている姿を見ないでください。」
という言葉に反し覗いてしまう男というのは、男は約束を破る存在で
あり、女はいつも本性を隠している存在だという事。

更に遡れば「古事記」に於いて、イザナミが「決して見ないでください。」
という言葉に反して、イザナギは、まだ体が再生していないイザナミの
醜い姿を見てしまう。

とにかく古代から、女は恐ろしい本性を隠している存在であり、男はタ
ブーを破る存在だと言われ続けたのだろう。

これほどまで女が恐ろしい本性を隠していると思われたのには、妊娠の
問題があった。人間の男と結ばれれば、人間の子供を産み、その子を守
り続けるのが女の性でもあった。しかし昔は、女とは何と交わるかわか
らない不安があった…。

妊娠のシステムが解明されていない昔、例えば犬と交われば犬の子を
産み、蛇と交われば蛇の子を産むのが女だと思われた。

昔の日本では、女人禁制の山が全国に沢山あった。その理由は様々ある
が、その中には女を魔物から守るというのもあった。山は異界であり、
何が棲むのかわからない恐ろしい空間が山であった。その山に女が迷い
込めば、魔物に襲われ犯されてしまうという不安。人間でない子を産む
という女は、その時点で人間では無くなってしまう。魔物の子であれ、
女にとっては我が子。我が子を守る女は、人間では無くなってしまうの
だった。

魔と交わる可能性のある女は、半分人間であり、半分魔物という意識も
あったようだ。なので、吉田兼好も上田秋成も、女性に対して辛辣な言
葉を投げかけているというのは、迷信がまだ蔓延っている時代という事
を現している。
by stavgozint | 2008-06-25 14:37 | 「青頭巾」
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